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熊野路

佐藤春夫


【木挽々々とひきつれて】

 真面目に農をしてゐた連中も今日此頃の稼ぎは木挽きに限るといふのでみなひきつれて山に志し、木挽の生活に赴く。木挽の仲間はこの文句の如く、大勢づれで山に行くのが恒で、その荷物といへば一方に柳骨折(こをり)と大鋸前挽の類、片方に味噌、清物小桶、さてはその日一日の弁当の用意のわつばを網袋に入れたものなど、皆申し合せたやうに同じ荷物で勢揃ひして、目ざし行くところは木挽唄にある如く——

木挽きやァいとしや千丈の谷で半畳むしろの小屋住ひ

である。これ等の木挽は山の仕事場から仕事場を追うていつも半年や一年は里には帰らないで稼いでゐるものである。

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底本:『定本 佐藤春夫全集』 第21巻、臨川書店

初出:1936年(昭和11年)4月4日、『熊野路』(新風土記叢書2)として小山書店より刊行

(入力 てつ@み熊野ねっと

長うた狂歌「木挽長歌」:熊野の歌

2015.12.22 UP



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