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四郎五郎鳥

那須晴次『伝説の熊野』

佐本

 昔佐本村に四郎五郎と言う兄弟がありました。兄弟は猟師で一人の母につかえ何一つ不自由なく暮して居りました。

 ある冬の日でした。兄弟は山奥深くわけ入って行きましたが今日にかぎって何一つ がなく朝から曇った空はやがて大雪にさえなり路の遠近を忘れて行けども行けども山また山雪また雪とうとう踏み迷ってそのままどこともなく行方がわからなくなってしまいました。

 家にはとり残されたたった一人の母の悲嘆といったらありませんでした。母親は二人の兄弟を思うあまり一人とぼとぼと兄弟の子供を探がして山深く老の弱い足を引きづりながら歩きましたが翌朝になって村の者どもが母親の足が片方だけ見えて雪の中に埋まって冷たくなって居るのを見出しました。ふとそばの松の木を見ますと小さな黒い烏が居て四郎さん五郎さんと泣いて居りました。

佐本庄:紀伊続風土記(現代語訳)

 

(入力 てつ@み熊野ねっと

2019.9.18 UP



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