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将軍滝の由来

那須晴次『伝説の熊野』

富里

 富里村の方から流れて来る大川があります。その大川と三川村日向口と言う所で落ち合って居る川がすなわちこの伝説を作った将軍川であります。その将軍川を段々と遡って行くとそこにはかなり大きな滝があります。鞺々水は滝壺に落ちこんで水煙が濛々と四辺をこめて居ります。この滝が昔か ら人の口に言い伝えられて居る将軍の滝であります。その昔どこかの戦に敗れた一人の将軍がかな り沢山の家来をひきつれてここに人目をしのぶ落武者となったのです。落武者は何かにつけて心配の多いものですから、そこで米のとぎ汁を川下に流さなかったということです。

 また将軍は家来を串という所の向側にあたる烏の森という所に使わして敵の襲来に備えて居りました。それは寒い日も暑い日も年が年中見張りをするのでした。けれどもこの将軍の武運がつきたのでありましょうか。家来が或る日の事、相かわらず警戒して居ると、何に驚いたのでしょうか、沢山の烏が一時にばっと飛び立ちました。そしてその黒々としたぬば玉の羽が日光をうけてきらきらと鎧の金具の様に輝きました。

 これを見た家来がいちずに敵を警戒していたものですから、すぐと敵が襲来したものだと思い込んでしまいました。そう考えると川の流れの音、木々をわたる風の音でさえ敵の作る鬨の声と聞きました。そこで大あわてにあわてた家来は早速息せき切って走り帰りすぐとこの事を将軍に言上し ました。これを聞いた将軍軍はとうとう武運の尽くる時が来たのだと想を残して家来共と一緒に滝壺に入水して敢えない最後を遂げたのです。その時に愛犬を抱いて滝壺へ飛び込まれた。犬は陸に上ろうと頻りにもがき泳ぎまわっって、そこらの石にかきつきました。そしてそのかいた爪痕が今も歴然と残っています。

 それから幾年かの星霜を経ました。瀑は昔とかわりなくとうとうと滝壺に落ち込んで濛々水煙を上げて居ます。それから将軍の滝という名がつけられました。そしてそこに源を発して流れている川を将軍川と言って居ます。なおまた不思議なことは村に旱魃が続いた時にこの滝に参詣するときっと雨を降らしてくれます。

 

(入力 てつ@み熊野ねっと

2019.7.31 UP



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