龍泉寺
那須晴次『伝説の熊野』
小さいながら田辺町と云うものを発展せしめた会津の流の西側に龍泉寺と云う浄土宗の寺がある。日曜毎に無邪気な小供等がここに集って貴い仏の数を受けている。さてこの寺に一つの伝説がある。昔延暦年間に奈良の勤操(ごんぞう)僧正が大旱魃に雨を祈るため、大和国布留社(ふるのやしろ:石上神宮)で薬草喩品(やくそうゆほん)を七日講ぜられたところ、 毎日どこからともなく童が来て御経を聞いていた。七日に満つる日「何者か」と尋ねるとは「私はこの山の小龍ですが七日の聴聞により安楽世界に生れます事の嬉しさよ」と云って随喜の涙を流した。
で僧正が「龍は雨を心に任せるものだから雨を降らせてくれ」と云ったところ「大龍王の許がなく て、自分の計ではなり難うございますが、後生菩提を御助け下されば身は失せても雨を降らせましょう」との答、「宜しいとも、必ず追善しよう」と御諒承あったので、小龍は雷となって昇天し雨を二時(ふたとき)程降らせたがその身は砕けて五ヶ所に落ちた。僧正これを憐み、その五ヶ所に五寺を建立して懇ろに弔ってやった。龍泉寺が即ちその中の一つであるのだそうだ。
(入力 てつ@み熊野ねっと)
2023.7.4 UP