釘抜きの橋
那須晴次『伝説の熊野』
今は昔百有余年前のことである。恐ろしい大海嘯が起こった時のこと。人と言う人生物と言う生物は何物も残さず悪魔のように押し寄せた海嘯に呑まれてしまうのであった。無論田辺付近の物は何物も余さず流された。その時大きな千石船が、荒れ狂う怒濤に翻弄されながら流されて行くのを見た。丁度その船が上秋津辺り迄流れた時ある一つの橋の傍で止った。もう動かない。乗って居る者はよみがえったように喜んだ。
それから十日ばかり後には水は全く引いた。さてこの千石船どうしたものだろう。流されなかったのは良かったが、持って行く事は到底不可能であると思案の首をひねったが、どうも妙案も出ない。そこで船に打って居る釘を悉く引き抜いて船板をたたんで持って行ったとの事である。丁度船がこの橋で止ったから船に因んで釘抜きの橋と名付けたのだそうです。
(入力 てつ@み熊野ねっと)
2019.7.14 UP