弁財天の化身
那須晴次『伝説の熊野』
周参見の海岸から四五丁沖に古木の茂った稲積島が静かに村の平和を守りつつ横たわって居る。実に神秘的な物語の潜んでいそうな島である。
昔ある上人が諸国巡錫の途この地に来て早速島に渡って修業を始めた。丁度明日で満願という時後の祠から大蛇があらわれ焔の様な息を吐きつつ上人に飛び掛ろうとした。上人は驚き浜辺に逃げた。 けれどもそこには一艘の舟もなかった。大蛇は跡を追って来る、最早これまでと下駄のまま海上に投じた。すると不思議や上人の身は滑るが如く陸に向って走った。
大蛇は尚も追っかけた。やがて海岸も近づいた頃であった。突然上人の頭の上にあった石が落ちて上人は下敷きになりにそのまま死んだ。大蛇は島に引返した。これを見た村人は大蛇を弁財天の化身だと伝えそこに社を建てて祀り上人の死んだ所は観音谷として今も伝えられています。
(入力 てつ@み熊野ねっと)
2019.7.25 UP