少年の日
佐藤春夫
1
野ゆき山ゆき海辺ゆき
真ひるの丘べ花を敷き
つぶら瞳の君ゆゑに
うれひは青し空よりも。
2
影おほき林をたどり
夢ふかきみ瞳を恋ひ
あたたかき真昼の丘べ
花を敷き、あはれ若き日。
3
君が瞳はつぶらにて
君が心は知りがたし。
君をはなれて唯ひとり
月夜の海に石を投ぐ。
4
君は夜な夜な毛糸編む
銀の編み棒に編む糸は
かぐろなる糸あかき糸
そのラムプ敷き誰(た)がものぞ。
底本:『定本 佐藤春夫全集』 第1巻、臨川書店
初出:1921年(大正10年)4月1日発行の『改造』(第三巻第四号)に
「抒情詩抄」の一編として「少年の恋」の標題で掲載
1921年(大正10年)7月12日、新潮社より刊行された『殉情詩集』に収録
(入力 てつ@み熊野ねっと)
2015.8.28 UP