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少年時代

佐藤春夫

 

流れて熱きわがなみだ
やすむときなきわがこころ(若菜集)

   一

なげきを鳥にたとふれば
こころは鳥の籠にして
枝につるせる鳥籠の
風にゆらるるわがおもひ。
柑子畑を歩む日も
海の鳴る日も鳴らぬ日も。

   二

君愛でたまふわが庭は
おしろいの花百合の花、
憎みたもふや花園に
蔓りしげる小草をば、
さらばぬきなん二人して
肩すりあふもうれしきに、
さあれこころの花園に
一日一日と生ひまさり
しげる小草は誰がぬく。

   三

ひとへに思ふこころをば
はかりたまはぬもどかしさ、
君がこころをはかりかね
今日は濱邊に立ち出でて
月夜の海に石を投ぐ。

   四

七月の日をひた吸ひて
觸るれば痛し山の石、
涙おとせばはかなしや
燃えて消え去る石の上、
涙ながれて見えわかず
君が家さへ靑き海さへ。

底本:『定本 佐藤春夫全集』 第2巻、臨川書店

初出:1916年(大正5年)12月5日発行の『大正文学』(第三年第一二号)に掲載

(入力 てつ@み熊野ねっと

2015.9.2 UP

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