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熊野路

佐藤春夫


【馬が合ひ 近所隣へ かけかまひ 内証ばなしも きさんじに 声高々とよもすがら……】

 近所隣と言つたところでやはり木挽小屋か炭焼小屋、梟の巣猿の宿ぐらゐなものではあらうがさすがに内証ばなしは気がねし乍らも、若い者同志は意気投合して大声も元気よくと、終夜おもしろをかしげな内証話は、何の事やら内証だからわからないが、近所隣へ かけかまひ 内証ばなしといふあたりは かけかまひ、につづく内証ばなしの内はまづかけかまい「無い」とうけて、それからもう一度内証ばなしの内と重複して読むつもりでないと通じない。そんな句法はここでは毎度の事であるが近来はとんとなく、もしあれば人が見とがめるものだけに、老婆深切で説明して置く。きさんじは欝気散じである。

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底本:『定本 佐藤春夫全集』 第21巻、臨川書店

初出:1936年(昭和11年)4月4日、『熊野路』(新風土記叢書2)として小山書店より刊行

(入力 てつ@み熊野ねっと

長うた狂歌「木挽長歌」:熊野の歌

2015.12.24 UP



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