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徐福の船

佐藤春夫

 

方士徐福の艤(ふなよそひ)
ゆゆしかりける大船の
高き帆柱あふぎつつ
人問ふ時はかの方士
殊勝なりけりその答
皇帝がため仙藥の
老いず死なぬを求(と)めんとて
東海萬里人知らぬ
蓬萊島(ほうらいじま)に船出すと

誰かは知らんその詐謀(さぼう)
童男童女(どうなんどうじょ)三千を
ひそかに集め滿潮(みちしほ)に
纜(ともづな)解きて酒を呼び
徐福歌へり高らかに
  『仙藥いかで世にあらん
  希望を積めるわが船よ
  疾く秦の世を脫れ出で
  ただ仙鄕を拓くべし

  四時花開く蓬萊は
  糧(かて)餘りあり風甘く
  木々は自由をささやきて
  鳥は平和をさへづれば
  悲しみなくて人老いず』

舷(ふなばた)の波 歌に和し
帆は逆風を聞切(まぎ)りつつ
去りにし船は沈まねど
行方は知らず今もなほ

底本:『定本 佐藤春夫全集』 第2巻、臨川書店

初出:1953年(昭和28年)3月1日発行の『文芸日本』(復刊第三号)に掲載
1960年(昭和35年)6月15日、普及版が有信堂より刊行され、
同年6月25日に著者朗読のレコード付きの限定版が刊行された『詩の本』に収録

1961年(昭和36年)4月1日発行の『群像』(第一六巻第四号)に
掲載された「望郷の賦」(全集15巻収録)に引用

(入力 てつ@み熊野ねっと

徐福伝説:熊野の説話

2015.9.2 UP

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