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日の出のうた

佐藤春夫

 

父の家のうら山は 丹鶴城あとの珂城山(かじょうざん)
わが少年の日 年年(ねんねん)の吉例で元日には
父が末の弟の手をひいて先頭に立ち
つづくむすこたちの足もとをいましめつつ
お城の本丸跡へ海の日の出を見に登った。

海はまだ黒くひっそり寝しずまっていた
去年の星は一つ一つ知らぬ間に消え失せ
水平線に重なった雲は早(はや)あかかった。
横雲はやがておもむろに赤い口が裂け
大きく燃える日をぽっかりとはき出した。

青空の下にわき立ち流れる赤い波金(なみきん)の波
川口には別に静かな白い波のあるこちら
てい泊した和船の帆柱に小さな国旗がはためく
父の笑顔はひげの下で白い息が見えた
帰ろうか、お雑煮もできたころだと言った時。

 

底本:『定本 佐藤春夫全集』 第2巻、臨川書店

初出:1956年(昭和31年)2月1日発行の『小学六年生』(第八巻第一一号)に掲載

(入力 てつ@み熊野ねっと

粉白村:紀伊続風土記(現代語訳)

2015.9.2 UP



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